カスハラ(カスタマーハラスメント)から従業員を守る|2025年改正法の事業主義務・労災認定・慰謝料相場【2026年版】
はじめに
「コンビニのレジで些細なミスから1時間以上説教された」「『土下座しろ』と強要された」「契約解除を伝えたら『SNSに晒す』『家族に押しかける』と脅迫された」「ネットに名指しで誹謗中傷を書かれ、精神的に追い詰められた」――こうしたカスタマーハラスメント(カスハラ)は、接客業・コールセンター・営業職など顧客対応を担う労働者の心身を破壊する深刻な社会問題です。
これまでカスハラには明確な法規制がなく、企業の自主的対応に委ねられてきましたが、2025年6月施行の改正労働施策総合推進法により、事業主にカスハラ防止のための雇用管理上の措置義務が課されました。同時に、東京都を皮切りにカスハラ防止条例も全国で広がりつつあります。
本記事では、カスハラの定義、2025年改正法の事業主義務、会社が対応してくれない場合の安全配慮義務違反、悪質顧客への損害賠償請求、適応障害・PTSDの労災認定基準を2026年最新基準で詳しく解説します。
カスハラの定義
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年)
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの。
2要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ①要求内容の妥当性 | 商品・サービスの瑕疵に対する正当なクレームか/不当な要求か |
| ②手段・態様の相当性 | 暴言・脅迫・長時間拘束・土下座強要・SNS晒し等は不相当 |
⇒ 正当なクレームでも手段が不相当ならカスハラ、また要求自体が不当(「無料にしろ」「責任者の自宅に来い」等)も全てカスハラ。
カスハラの典型パターン
| 類型 | 具体例 |
|---|---|
| 暴言・侮辱 | 「バカ」「無能」「死ね」等の人格攻撃 |
| 威圧・恫喝 | 大声・机を叩く・睨みつける・物を投げる |
| 長時間拘束 | 1時間以上の説教、閉店後の居座り |
| 土下座強要 | 公衆の前で土下座を強要 |
| 執拗な訪問・電話 | 毎日繰り返される苦情、深夜の電話 |
| 暴力・ストーキング | 殴る・蹴る・つきまとい |
| SNS晒し | 顔写真・実名のネット拡散、誹謗中傷投稿 |
| 不当な金銭要求 | 慰謝料数百万円要求、無償サービス強要 |
| 私的便宜の要求 | 「個人連絡先を教えろ」「特別に対応しろ」 |
| セクハラ的言動 | 客から従業員への性的な発言・接触 |
2025年6月施行・改正労働施策総合推進法のポイント
事業主の措置義務(30条の3)
事業主は以下の措置を講じる義務を負います(パワハラ防止措置の規定を準用)。
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 方針の明確化と周知 | カスハラを許さない方針を就業規則・社内文書で明示 |
| 相談窓口の設置 | カスハラ被害を受けた従業員が相談できる体制 |
| 被害発生時の迅速対応 | 事実確認・被害者保護・行為者への対応・再発防止 |
| プライバシー保護 | 相談者・被害者・行為者のプライバシー保護 |
| 不利益取扱いの禁止 | 相談・申告を理由とする不利益処分禁止 |
適用範囲
- 大企業:2025年6月施行
- 中小企業:当面努力義務、段階的義務化
違反した場合
労働施策総合推進法33条に基づき、厚労大臣は事業主に助言・指導・勧告、改善されない場合は企業名公表。
重要判例
加古川市職員事件(最判平30.11.6)
水道局職員が住民に土下座させたうえ罵声を浴びせた事案。最高裁は「市民への対応の限度を著しく超えた」として懲戒処分を有効と判断。⇒「客のため」が無制約に許されないことを示す。
東京メトロ事件(東京地判令3.5.21)
駅員が乗客から暴行を受けた事案で、鉄道会社の安全配慮義務違反が問われ、損害賠償が認容。
国際自動車事件(東京地判令2.7.27)
タクシー運転手への乗客の暴行につき、会社の安全管理体制の不備を理由に労災認定+会社の安全配慮義務違反責任を認容。
コンビニエンスストア店員事件(最判平29.3.21)
店員への執拗なクレーム客への店舗側の対応拒否を適法と判断。
銀行員事件(東京地判平30.6.27)
顧客の暴言で適応障害を発症した銀行員につき、銀行の安全配慮義務違反を認容。
介護施設職員事件(神戸地判令1.8.27)
介護利用者家族からの執拗なクレームによる職員の精神疾患につき、業務起因性を認め労災認定を適法と判断。
会社が対応してくれない場合の安全配慮義務違反
労契法5条(安全配慮義務)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
カスハラ放置=安全配慮義務違反
会社がカスハラを放置・黙認することは労契法5条の安全配慮義務違反にあたります。具体的には:
- 「お客様優先」「我慢しろ」と従業員に強要
- 複数の被害報告にもかかわらず対策せず
- 暴力的客への警察通報・出禁措置を取らない
- 被害従業員へのケア・配置転換等の保護をしない
- SNS晒し・誹謗中傷への会社としての対抗措置を取らない
これらは債務不履行責任(民法415条)および不法行為責任(民法715条等)を生じさせます。
悪質顧客への損害賠償請求
民事上の責任
| 請求類型 | 内容 |
|---|---|
| 慰謝料請求(民法709条・710条) | 精神的損害への金銭賠償 |
| 逸失利益(民法709条) | 休職・退職に伴う収入減少 |
| 治療費(民法709条) | 通院・カウンセリング費用 |
| 名誉毀損損害賠償 | SNS晒し等への賠償 |
刑事上の責任
カスハラの悪質事案は刑事犯罪にも該当。
| 行為 | 該当罪 | 刑罰 |
|---|---|---|
| 暴言・脅迫 | 脅迫罪(刑法222条) | 2年以下の懲役・30万円以下の罰金 |
| 強要・土下座要求 | 強要罪(刑法223条) | 3年以下の懲役 |
| 殴る・物を投げる | 暴行罪・傷害罪(刑法208・204条) | 暴行2年以下、傷害15年以下 |
| 長時間拘束 | 不退去罪・監禁罪(刑法130・220条) | 不退去3年以下、監禁7年以下 |
| SNS誹謗中傷 | 名誉毀損罪・侮辱罪(刑法230・231条) | 名誉毀損3年以下、侮辱拘留 |
| 不当な金銭要求 | 恐喝罪(刑法249条) | 10年以下の懲役 |
被害従業員は警察への被害届・刑事告訴が可能。
適応障害・PTSDの労災認定
労災認定の枠組み
カスハラによる精神疾患の労災認定基準は厚労省心理的負荷による精神障害の認定基準(2023年改訂)に基づきます。
「業務による強い心理的負荷」と認定される事例
- 顧客から身体的暴行を受けた(強)
- 顧客から人格攻撃の暴言を継続的に受けた(中〜強)
- 土下座強要等屈辱的対応を強いられた(強)
- SNS晒し等の社会的攻撃を受けた(中〜強)
認定された場合の給付
| 給付 | 内容 |
|---|---|
| 療養補償給付 | 治療費全額 |
| 休業補償給付 | 給与の80%(休業4日目から) |
| 障害補償給付 | 後遺障害の程度に応じる |
| 遺族補償給付 | 自殺の場合 |
安全配慮義務違反責任との二段重ね
労災認定とは別に、会社の安全配慮義務違反による損害賠償請求も可能。慰謝料・逸失利益等を労災給付では賄えない部分として追加請求可能。
カスハラ被害を受けた場合の対処5ステップ
ステップ①:証拠の確保
| 証拠 | 入手・記録方法 |
|---|---|
| 録音・録画 | スマホ・防犯カメラ映像 |
| 時系列メモ | 日時・場所・発言内容を即日記録 |
| 同僚・上司の証言 | 陳述書 |
| SNS投稿のスクショ | URL・投稿日時付き |
| 医師の診断書 | 適応障害・うつ・PTSD等 |
ステップ②:上司・社内相談窓口へ報告
書面で被害申告し、対応経過を記録。会社の対応が不十分なら社内ハラスメント窓口・労働組合へ。
ステップ③:労働基準監督署・労働局への相談
労基署では労災申請(カスハラによる精神疾患)、労働局雇用環境・均等部では会社の措置義務違反の助言・指導を受けられます。
ステップ④:警察への被害届・告訴
暴行・脅迫・強要・恐喝等は刑事犯罪として警察へ被害届・告訴。
ステップ⑤:弁護士による民事請求
加害顧客への慰謝料請求+会社への安全配慮義務違反責任追及。SNS誹謗中傷は発信者情報開示請求を併用。
慰謝料・損害賠償の相場
| 内容 | 相場 |
|---|---|
| 一回限りの暴言・侮辱 | 慰謝料30万〜80万円 |
| 継続的な暴言・恫喝 | 慰謝料80万〜200万円 |
| 暴力・身体的接触あり | 慰謝料100万〜300万円 |
| SNS晒し・名誉毀損 | 慰謝料100万〜300万円 |
| 適応障害・PTSDで休職 | 慰謝料200万〜500万円+逸失利益 |
| 自殺等の重大被害 | 数千万〜億単位 |
| 会社の安全配慮義務違反 | 上記に加え会社へ別途請求可能 |
よくある質問(Q&A)
Q1. 「お客様は神様」と言われ、我慢を強要されています。
A. 「お客様優先」を理由に従業員にカスハラを我慢させるのは安全配慮義務違反。改正労働施策総合推進法でも会社の措置義務が明確化されました。我慢する必要はありません。
Q2. 客の名前・住所がわかりません。請求できますか?
A. 弁護士による警察情報照会・防犯カメラ映像確認・店舗会員情報の利用等で特定可能。SNS加害者は発信者情報開示請求で特定できます。
Q3. 既に退職してしまいましたが、会社の責任を問えますか?
A. はい。在職中の安全配慮義務違反については退職後3年以内(民法724条)に損害賠償請求可能。
Q4. 派遣社員ですが、派遣先の客からカスハラを受けました。
A. 派遣先・派遣元双方に措置義務・安全配慮義務があります。派遣先の客への請求も含め、両者に責任追及可能。
Q5. 録音は法的に問題ありませんか?
A. 会話の当事者による録音は適法(最判平12.7.12)。証拠として裁判所も採用します。
Q6. クレーマー客を出禁にすることはできますか?
A. 店舗の管理権に基づき特定客の入店拒否(出禁)は適法。執拗な訪問には接近禁止仮処分も可能です。
まとめ
カスハラは、被害従業員の心身を破壊する違法行為であり、2025年改正法で会社の防止措置義務が明確化されました。
悪質顧客は刑事犯罪(脅迫・強要・暴行・恐喝・名誉毀損)にも該当
会社の放置は労契法5条の安全配慮義務違反として損害賠償の対象
適応障害・PTSDは労災認定+会社責任の二段請求が可能
「客には逆らえない」「我慢しろ」と言われても、法律はあなたを守ります。カスハラ被害を受けたら、速やかに労働問題・ハラスメントに強い弁護士へご相談ください。
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この記事の監修者
仕事トラブルNavi 編集部(労働問題専門弁護士監修)
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この記事の著者
仕事トラブルNavi 編集部
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