残業代請求2026年4月25日

固定残業代(みなし残業)は違法?無効になるケースと超過分の請求方法を完全解説【2026年版】

「求人票に『月給30万円(固定残業代40時間分込み)』とあり、どれだけ残業しても追加支給がない」「基本給の中に『みなし残業代』が含まれていると言われ、計算方法が不明」「月100時間残業しても残業代は固定のまま。これって適法?」

固定残業代(みなし残業代・定額残業代)は制度そのものは合法ですが、多くの企業で運用が違法になっており、裁判で次々と無効と判断されています。無効になれば、「固定残業代として支払っていた金額は基本給」と扱われ、さらに全残業時間に対して割増賃金を追加請求できる、労働者に極めて有利な結果になります。本記事では、固定残業代が無効になる判断基準と、超過分を取り戻す方法を解説します。

固定残業代(みなし残業代)とは

制度の基本

固定残業代とは、毎月一定時間分の残業代を、実際の残業時間にかかわらず固定額で支払う仕組みです。「月40時間分として月5万円支給」などの形で運用されます。

制度自体は合法

判例は「一定の要件を満たせば」固定残業代を有効と認めています(小里機材事件/最判昭63.7.14)。残業管理の簡易化や給与の透明化という合理性はあります。

しかし要件違反が圧倒的に多い

実務では有効要件を満たさない運用が多く、8割以上の事案で無効と判断されるのが現状です。特に次の2つの誤解が蔓延しています。

  • 「給与の中に残業代を含む」と書くだけで有効という誤解
  • 「何時間残業しても追加支払なし」という運用

これらは明確に違法です。

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固定残業代が有効になる3要件

最高裁は固定残業代の有効性について、以下の3要件を要求しています(日本ケミカル事件/最判平30.7.19ほか)。

①明確区分性(判別可能性)

通常の労働に対する賃金と残業代部分とが明確に区分されていること。具体的には、

  • 「基本給〇万円、固定残業代〇万円」と金額が明示
  • 「〇時間分の残業代として支給」と対応時間数が明示
  • 給与明細・労働契約書・就業規則のいずれかに記載

「月給30万円(残業代込み)」のような一体記載は無効です。

②金額対応性(差額支払の前提)

固定残業代の金額が、対応する時間数の割増賃金額と整合していること。

  • 時給×1.25(深夜なら1.5、休日なら1.35)×設定時間
  • この計算と固定額が大きく乖離している場合は無効

③超過支払性(差額清算)

固定残業代を超える残業があった場合、差額を追加支給する運用になっていること。

  • 就業規則・契約書に「超過分は別途支給する」旨の規定
  • 実際に超過分を支払った実績があること
  • 超過が生じても一切追加支給しない運用は明確に無効

重要判例

  • 小里機材事件(最判昭63.7.14):明確区分性の基礎を確立
  • 高知県観光事件(最判平6.6.13):基本給と残業代部分の明確区分を要求
  • テックジャパン事件(最判平24.3.8):40時間分みなし残業に対して追加支給すべきと判示
  • 日本ケミカル事件(最判平30.7.19):3要件を再確認し、割増賃金性の明示を要求
  • 国際自動車事件(第一次)(最判平29.2.28):歩合給から残業代相当額を控除する仕組みを違法と判断
  • イーライフ事件(東京地判令3.3.30):求人票の「月給◯円(固定残業代含む)」表記だけでは無効

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固定残業代が無効になる典型ケース

①求人票の記載が不明瞭

  • 「月給25万円(固定残業代45時間分含む)」
  • 基本給と残業代の金額が分かれていない
  • 対応時間数が不明

②労働契約書に具体的な記載がない

  • 単に「残業代は基本給に含む」とだけ記載
  • 金額・時間数・超過時取扱の記載なし
  • 就業規則を参照する旨のみで規定不在

③超過分の計算・支給実績がない

  • 何時間働いても同じ金額
  • 会社が残業時間を管理していない
  • 「超過分は別途支払う」規定はあるが実際には支払わない

④歩合給・役職手当名目での運用

  • 歩合給のうち「残業代相当額」の控除方式(国際自動車事件で違法)
  • 役職手当に「全残業代を含む」とする記載

⑤40時間超の過大設定

  • 固定残業40時間 → 法定残業限度(月45時間・年360時間)を前提
  • 80時間・100時間分のみなし残業は、過労死ライン超えを前提とした違法性の強いパターン
  • 実際の残業が少ないほど、過大設定自体が違法になりやすい

⑥深夜・休日割増の別払をしていない

固定残業代が「通常残業分」でしかカバーされていないのに、深夜・休日労働にも適用と主張するのは違法です。

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固定残業代が無効になるとどうなる?

計算メカニズムの逆転

固定残業代が無効認定されると、労働者が極めて有利な計算になるのがポイントです。

①固定残業代部分は基本給へ吸収

「月給30万円+固定残業代5万円」で無効なら、全額35万円が基本給として扱われます。

②基本給ベースで残業代を再計算

残業代の計算ベースとなる基礎賃金が増えるため、1時間あたりの単価が上昇します。

③固定残業代の金額は補填できない

会社が「5万円を既に払っているから差額だけ」と主張しても、無効である以上、その主張は通りません。結果として全残業時間分×高くなった時給×1.25を満額請求できます。

計算例

  • 月給30万円+固定残業40時間分5万円
  • 月間労働時間170時間、残業60時間

有効な場合

  • 基本給30万円、時給1,765円
  • 残業代:40時間分は固定、20時間分を追加 → 20時間×1,765×1.25 = 約44,125円追加

無効の場合

  • 基本給35万円、時給2,058円
  • 残業代:60時間×2,058×1.25 = 約154,350円
  • 既払い固定残業代5万円も填補できないため全額請求可

差額は月10万円超、2年分さかのぼれば約260万円の取り戻しが可能になります。

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固定残業代を取り戻す5ステップ

ステップ1:労働契約書・求人票・給与明細を確認

  • 契約書の記載方法(金額・時間数の明示)
  • 求人票(職安法改正で固定残業代の明示義務化)
  • 給与明細で基本給と固定残業代が区分されているか

ステップ2:労働時間を証拠化する

  • タイムカード・勤怠管理システム
  • PCログ・メール送信時刻
  • 入退室記録(ICカード等)
  • 業務日報・交通IC履歴
  • 自分のメモ・日記

残業時間の立証は労働者側にあるため、証拠保全が最重要です。

ステップ3:会社に請求書を送付

内容証明郵便で以下を通知します。

「貴社の固定残業代制度は、明確区分性・金額対応性・超過支払性の要件を満たさず無効と考えます。〇月〇日から2年分の割増賃金残額〇円を支払うよう請求いたします。」

ステップ4:労基署への申告

  • 最寄りの労働基準監督署で申告
  • 労基署は会社に是正勧告・指導を行う
  • 悪質な場合は書類送検のうえ労基法違反で刑事責任も

ステップ5:弁護士・労働審判

  • 未払額が大きい場合は労働審判で迅速解決
  • 付加金(労基法114条)で同額の上乗せ請求
  • 会社側が和解せず争うなら訴訟

請求できる金額

基本の請求額

  • 未払い残業代(再計算ベース)
  • 付加金(労基法114条・裁判所命令で同額上乗せ)
  • 遅延損害金(在職中は年3%、退職後は年14.6%)

時効は3年(当面)

労基法改正により、賃金請求権の時効は当分の間3年(将来的に5年)です。3年分さかのぼって請求可能で、月10万円の差額なら約360万円の取り戻しになります。

慰謝料は原則請求できない

残業代未払いは「債務不履行」であり、慰謝料は原則請求できません。ただし、ハラスメント併発精神疾患発症があれば別途請求可能です。

よくある質問(Q&A)

Q1. 求人票に「みなし残業45時間」とあれば合法?

それだけでは合法になりません。45時間に対応する金額明示・超過時の追加支給規定・実際の支払実績が揃って初めて有効です。求人票の記載は1つの要素にすぎません。

Q2. 管理職には固定残業代が適用される?

管理監督者に該当すれば適用されない(そもそも残業代対象外)ですが、多くの「管理職」は名ばかり管理職であり実態は一般労働者です。その場合は固定残業代のルールが適用されます。

Q3. 会社から「固定残業代をやめる代わりに基本給を上げる」と提案されたら?

これは実質的な賃金減額の可能性があり、慎重に検討が必要です。基本給総額は増えても残業代の計算ベースや退職金・賞与の基礎額にどう影響するかを確認しましょう。就業規則の不利益変更にあたる場合は労働者の同意が必要です。

Q4. 裁判するほど大げさにしたくないが相談だけでも可能?

無料の総合労働相談コーナー、社労士・弁護士の初回無料相談労働審判など、段階的な選択肢があります。まずは証拠だけでも整理し、無料相談で見通しを聞くことから始められます。

Q5. 既に退職しているが請求できる?

退職後も3年以内なら請求可能です。むしろ退職後の方が心理的プレッシャーがなく請求しやすいケースも多いです。退職後は遅延損害金年14.6%も上乗せできます。

Q6. 会社が倒産しそうな場合は?

労働者健康安全機構の未払賃金立替払制度で、最大8割(年齢により上限あり)を立替してもらえます。ただし固定残業代の無効認定が前提になるため、早期に弁護士相談が必要です。

まとめ

固定残業代は制度としては合法ですが、運用が違法な会社が大多数です。無効と判断されれば全額が基本給に吸収され、残業代を追加請求できるため、労働者にとって極めて有利な構造になっています。

1

労働契約書・求人票・給与明細を精査し、3要件(明確区分・金額対応・超過支払)違反を見つける

2

タイムカード・PCログ等で労働時間を立証する

3

内容証明・労基署・弁護士を活用して過去3年分+付加金を取り戻す

特に求人票だけで「みなし残業込み」と表示して実務運用が不明何時間残業しても固定額のまま深夜・休日の別払がない会社は、違法と判断される可能性が極めて高いケースです。「いくら働いても残業代は固定」と思い込む前に、一度専門家への相談から始めましょう。

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この記事の著者

仕事トラブルNavi 編集部

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