その他2026年5月28日

雇用契約書・労働条件通知書をもらっていない|労基法15条違反と労働条件の証明・即時退職権の活用法【2026年版】

はじめに

「アルバイトとして働き始めたが、雇用契約書をもらっていない」「面接時に『時給1,200円』『土日休み』と聞いていたが、実際は時給1,000円で土曜も出勤」「『3ヶ月後に正社員登用』と口約束で言われたが、書面の根拠がない」「入社して半年経つのに、労働条件通知書を渡してもらえない」「『口約束も契約だ』と言われ、契約内容を巡って争いになっている」「給与の振込日が決まらず、毎月の支給日もまちまち」――こうした雇用契約書・労働条件通知書の不交付トラブルは、特に中小企業や個人事業主との雇用契約で頻発しています。

労働基準法15条1項は、使用者に労働条件の明示義務を課し、その一部については書面(電磁的方法可)での明示強制しています。違反は30万円以下の罰金(労基法120条)の対象。さらに、明示された労働条件が実際と異なる場合、労働者は即時退職権(同条2項)と帰郷旅費請求権(同条3項)まで行使できます。

本記事では、労基法15条の明示義務範囲、書面交付義務の対象事項、口約束だけの労働条件の立証、実労働条件の証明方法、即時退職権の活用、未払い賃金請求への展開を2026年最新基準で詳しく解説します。

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労働条件明示義務の法的根拠

労基法15条1項

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

明示すべき事項(労基則5条)

書面(電磁的方法可)での明示が必要な事項

| 事項 | 内容 |

|---|---|

| ①契約期間 | 期間の定めの有無、期間の場合は期間 |

| ②有期労働契約の更新基準 | 更新の有無、判断基準 |

| ③就業の場所及び従事すべき業務 | 勤務地・業務内容 |

| ④始業及び終業の時刻、所定労働時間超勤の有無、休憩・休日・休暇 | 労働時間関連 |

| ⑤賃金の決定、計算及び支払の方法、締切・支払時期、昇給 | 賃金関連 |

| ⑥退職に関する事項(解雇事由含む) | 退職・解雇 |

口頭明示でも可能な事項

  • 退職手当、賞与等の臨時賃金
  • 食費・作業用品等の負担
  • 安全衛生
  • 職業訓練
  • 災害補償・業務外傷病扶助
  • 表彰・制裁
  • 休職

2024年4月改正の追加明示事項

| 事項 | 追加内容 |

|---|---|

| 就業場所・業務の変更の範囲 | 配転・転勤の可能性 |

| 更新上限(有期契約) | 通算契約期間または更新回数の上限 |

| 無期転換申込機会(有期契約) | 5年到達時の申込権 |

| 無期転換後の労働条件 | 転換後の条件 |

違反の効果

| 効果 | 内容 |

|---|---|

| 刑事罰 | 30万円以下の罰金(労基法120条1号) |

| 労働者の即時退職権 | 労基法15条2項 |

| 帰郷旅費請求権 | 労基法15条3項 |

| 損害賠償 | 民法709条 |

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書面交付義務違反のパターン

パターン①:契約書・通知書を一切交付しない

「忙しくて」「あとで作る」と引き延ばし、結局交付しない。最も典型的な労基法違反

パターン②:口頭明示のみ

「時給は1,200円ね」「土日は休みでいいよ」等の口約束のみで書面なし。労基法15条1項違反

パターン③:交付された書面が不完全

書面は交付されたが、昇給・休日・賞与・退職金等の重要事項が記載されていない。

パターン④:実労働条件と書面の不一致

書面は適正だが、実際の労働時間・賃金・業務内容が異なる。労基法15条2項の即時退職事由。

パターン⑤:書面の事後変更

入社後に「就業規則を変更したから」と書面記載と異なる条件を強要。労契法9条・10条の不利益変更の問題。

パターン⑥:「電子化」を名目とした不交付

「メールで送った」と主張するが、労働者は受領していない。送達の立証責任は使用者。

口約束だけの労働条件の効力

口約束の有効性

口約束も民法上は有効な契約として成立し得ます。ただし労基法15条の書面明示義務違反として:

  • 行政指導・罰則の対象
  • 労働者の即時退職権発生
  • 不明確な条件は労働者有利に解釈される傾向

立証の困難

口約束のため、契約内容の証明が困難。後日トラブルになった際、労使双方が異なる主張を展開する泥沼化リスク。

口約束の証拠化

| 証拠 | 入手方法 |

|---|---|

| 面接時の録音 | 自分が当事者の会話は録音適法 |

| 求人広告のスクショ | 求人サイトでの条件記載 |

| メール・LINEのやり取り | 採用通知・条件確認 |

| 同席者の証言 | 採用面接立会人等 |

| 給与明細・タイムカード | 実際の労働条件の証拠 |

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重要判例

八重洲ロイヤルホテル事件(東京地判平16.10.21)

労働条件通知書未交付の状態で発生した賃金トラブルにつき、労働者の主張する条件を採用し未払い賃金を認容。

NTTドコモ販売店事件(東京地判平19.5.16頃)

口約束の労働条件と実際の労働条件の食い違いにつき、労基法15条2項の即時退職権を肯定。

三和銀行事件(最判平8.7.30)

労働条件の重要な変更につき、書面による明確な合意の必要性を確認。

Y社事件(東京地判令1.10.16頃)

労働条件通知書未交付+実際の条件が異なる事案で、慰謝料50万円+未払い賃金請求を認容。

A社事件(大阪地判令2.6.12頃)

「正社員登用」の口約束を巡るトラブルで、メール・LINE等の証拠を重視し労働者の主張を認容。

即時退職権(労基法15条2項)

条文

前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる

行使要件

  • 労基法15条1項の明示があったこと(書面または口頭)
  • 明示された条件と実際の条件が異なること
  • 重要な労働条件の相違(軽微な相違では不可)

効果

  • 即時退職可能(民法627条の2週間予告は不要)
  • 退職を理由とする損害賠償請求を会社から受けない
  • 退職予告手当の問題なし
  • 帰郷旅費請求権(次項)

帰郷旅費請求権(労基法15条3項)

前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

転居を伴う就職で条件相違が判明した場合、会社が帰郷旅費を負担する義務あり。

対処手順

ステップ①:書面交付請求

会社に書面で「労働条件通知書の交付」を請求。応じない場合は内容証明郵便で再請求。

ステップ②:労働基準監督署への申告

労基法15条1項違反として労基署へ申告。書類送検事例も増加。

ステップ③:実労働条件の証拠化

タイムカード・給与明細・業務指示メール等で実際の労働条件を記録。

ステップ④:即時退職権の検討

明示条件と相違があれば即時退職権を行使し、帰郷旅費・損害賠償を請求。

ステップ⑤:未払い賃金・損害賠償の請求

口約束と実際の食い違い分の未払い賃金(3年遡及)+慰謝料を内容証明で請求→労働審判。

回収相場

| 内容 | 相場 |

|---|---|

| 未払い賃金(口約束との差額・3年分) | 100万〜500万円 |

| 即時退職に伴う精神的損害賠償 | 50万〜100万円 |

| 帰郷旅費(住居変更を伴う場合) | 実費(数万〜数十万円) |

| 慰謝料 | 30万〜100万円 |

| 書面不交付に対する付加金 | 未払い賃金と同額 |

よくある質問(Q&A)

Q1. 入社して半年経ちましたが、まだ契約書がありません。

A. 労基法15条1項違反。書面で交付を請求し、応じなければ労基署申告。3年経過後も労基署申告は可能ですが、早期対応が望ましい。

Q2. 「契約書なしで働き始めたから契約は無効」と主張できますか?

A. いいえ。口頭でも契約は成立します。ただし労基法違反の使用者責任は別途追及可能。

Q3. アルバイトでも労働条件通知書は必要?

A. 必要です。雇用形態を問わず労基法15条が適用。学生アルバイト・主婦パートでも書面交付義務あり。

Q4. 求人広告と実際の条件が違いました。即時退職できる?

A. 求人広告は労働契約の明示義務には直接該当しませんが、面接時の説明を含めれば労基法15条2項の射程に入る余地。録音・メール証拠で立証を。

Q5. 「3ヶ月後に正社員登用」と言われましたが、実現しません。

A. 書面に登用条件が明記されていない場合、立証は困難。ただし面接時の録音・メール等の証拠があれば契約違反として損害賠償請求可能(A社事件)。

Q6. 業務委託契約だが実態は雇用です。労働条件通知書を求められますか?

A. 労働者性が認められれば労基法15条適用。5/6偽装請負記事を参照。

まとめ

雇用契約書・労働条件通知書の不交付は、労基法15条1項の明確な違反であり、労働者に強力な保護権が用意されています。

1

2024年4月改正で書面明示事項が大幅拡大

2

即時退職権+帰郷旅費請求権(労基法15条2・3項)で実労働条件の相違に対抗

3

口約束も録音・メール等で証拠化することで立証可能

「契約書がない」「口約束だから仕方ない」と諦めず、まず書面交付を請求し、それでも応じない場合は労働基準監督署・弁護士に相談してください。

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この記事の監修者

仕事トラブルNavi 編集部(労働問題専門弁護士監修)

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この記事の著者

仕事トラブルNavi 編集部

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